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「水俣条約から考える
   化学物質をめぐる責任のあり方」

  貴田 晶子さん
   (元国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター廃棄物試験評価研究室長、
    高木基金顧問)

2017年8月、水銀の採掘から使用、移動、廃棄等を国際的に規制する「水俣条約」が発効し、9月にはスイスで第1回の締約国会議が開催されました。この動きについて、国立環境研究所で水銀を含む有害化学物質管理の研究に長年にわたって取り組んでこられれた貴田晶子さんに お話を伺いました。
(インタビュー実施日:2017年10月/聞き手:高木基金事務局長 菅波 完)



― 今回、スイスでの締約国会議でも水俣病の患者さんが被害の実情をスピーチしたということですが、水銀による環境汚染や健康被害の世界的な状況から教えていただけますか。

貴田 水銀は化学工業などで不可欠な化合物として使用されてきました。使用は少なくなりましたが、環境大気への排出は変化していないと推定されています。また、石炭の燃焼や鉱物資源の精製、廃棄物の焼却など、水銀を直接使用していないところからの大気への排出が世界的に問題視され、条約への道筋となりました。水銀は環境中で分解されず、大気や水を通じて循環し、一部が毒性の高いメチル水銀となり生物の体内で濃縮されます。日本では工業製品・電池・蛍光管の水銀は回収され、大気排出削減対策がすすめられてきました。
 近年の健康被害問題は、途上国における小規模な金採掘です。土砂に含まれる金を抽出・精錬する工程で、大量の水銀を使用するため、作業者は、熱せられて気化した無機水銀を吸入することによる水銀中毒の危険にさらされています。その工程から川などに流れ出た水銀は、環境中でメチル化し、魚などに有機水銀の汚染が広がり、その魚を食べた人にも水銀の被害が広がっています。高木基金のアジア枠で助成したインドネシアのアチェ州の問題もその事例です。

― 条約によって国際的な規制の枠組みができたわけですが、このことをどのように見ておられますか。

貴田 現在、このようなかたちで規制をすることは意義のあることですが、はっきり言って遅すぎたと思います。私たちは、過去に使ってきたものの責任を感じなければなりません。
 日本は、かつて世界有数の水銀使用国でしたが、水俣病の経験もあり、水銀の使用量は減らしてきました。とはいえ、自国で回収した水銀を、他の国へ輸出してきたことの責任を考えなければいけません。有害物質の行方は、最後の最後までとらえるべきですが、日本がそれをやってきたとはいえません。
 また、水俣病患者の認定においては、現在でも、胎児性水俣病患者の申請の多くを認めず、補償も賠償も不十分です。私はそのことが一番問題だと思っています。

― 水銀に限らず、科学技術の負の側面にどう向き合うかということですね。

貴田 例えば、いま盛んに開発がすすめられているナノテクでは、アスベストと同じくらいの微小な粒子が扱われています。アスベストは40 年前に吸入した方が中皮腫を発症したりすることもあり、ナノテクについても慎重な検証が不可欠です。
 新しい化学物質は、有用なものでも、その裏に廃棄や処分の問題があります。「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありますが、ライフサイクルやマテリアルフローの視点から検証しなければなりません。水銀についても、規制によって水銀がなくなるわけではありません。たとえば排気ガスから集塵装置で回収した水銀の管理を考えねばなりません。便利なものの、その裏にあるものを常に考えておかないとしっぺ返しを食うというのが水銀の歴史から考えるべきことだと思います。

― 貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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